「わからないものは、美しい」 ──イケバタユウコと“つくるて”たちが信じた、表現のかたち──

「わからないものは、美しい」 ──イケバタユウコと“つくるて”たちが信じた、表現のかたち──

好きこそもののじょうずなれ

「“できる”じゃなくて、“やりたい”を大事にしたいんです」

そう語るイケバタユウコの目は、どこか遠くの風景を見ているようで、でもすぐ目の前の誰かをまっすぐ見ているようでもあった。

イケバタが「やりたい」を大切にしたい場所──それが、スコモジーナであり、彼女のつくる小さな宇宙だ。

一般社団法人schomojinaが運営す4つの場所 「生活介護事業所スコモジーナ」「osteria barquinho(オステリア バルキーニョ)」「da botto coffee(ダ・ボット コーヒー)」「BOND C kuduRu(ボンド クラブ クヅル)」。

今日は姫路市の北部、野里商店街の静かな城下町にひっそり佇む da botto coffee にお邪魔をして、お話をお伺いした。

スコモジーナは、知的障害のある人たちが表現や制作を通して、自分の「やってみたい」をかたちにする場所だ。

ここには、“知的障害がある人たち”というひと括りでは語れない、無数の個性と感性が生きている。
色彩に惹かれる人、布をちぎり続ける人、ずっと黙って手を動かす人。

「“仕事”というより、“表現”と呼びたいんです」

スコモジーナでは、日々の創造活動が“仕事”として日中活動の中に組み込まれている。だがイケバタは、それだけでは語れないものを感じている。

「展覧会をやった時、一般のお客さんが、何も言えなくなる瞬間があるんですよ。“なんかわからんけど、すごい”って。あれが大事なんです」

わからないもの。それは時に、人を不安にさせる。 でもここでは、その“わからなさ”こそが、美しさになっていく。


音でつながる日常

スコモジーナの作業場に入ると、言葉ではない“音”が満ちている。 紙をちぎる音、絵具を混ぜる音、ミシンのリズム──そして、それが止まった時に走る“気配”。

「私たちは、声をかけるんじゃなくて、音で感じるんです。『あ、手が止まったな』『休憩かな』って。で、そっと通り過ぎたりする。それでまた手が動き出すこともある」

音という日常のセンサーは、言葉以上に多くを伝える。 それは障害のある人たちとのコミュニケーション手段であるだけでなく、彼女自身の「生き方のチューニング」でもある。

「伝わらなかったな、って思っても、落ち込んだりはあまりしないんです。仕方がないな、次やなって」

そんな柔らかな覚悟が、この場所を満たしている。


つなぐ、ということの執着

なぜ、こんなにも“つなぐ”という行為にこだわるのか。

「つながってほしいから、かな」

答えはあっけないほどシンプルだった。

人と人、ひとと社会、障害と表現、生活とアート。 それらが“べつべつのもの”として語られる世の中において、イケバタユウコは境目を消したいと思っている。

「“何もしてない時期”って、私にもあったんです。ただぐーたらしてた(笑)」

あっけらかんと笑うイケバタだが、彼女が時折に放つ独特の“余白”。

今の“母”としての時間、“スコモジーナ”としての今に、つながっているように感じる。

彼女の語る“つながり”は、他者と自分を越境して、時間や過去とさえも結ばれている気がしてならない。


続けることと、手放すこと

「もう無理かも、って思うこと、ありますよ。むしろ、ずっと思ってる(笑)」

それでも続ける。 なぜか。

「人がいるから、かな」

誰かと共にいることが、彼女にとっての「やる理由」になる。 だからこそ、辞めることは、続ける以上に難しい。

「“好きなことだけしてたい”って思ってやってる。けど、それって実は、苦しくなることもある。でも、それでいいんやと思う」

矛盾も不完全さも、そのまま受け止める。 イケバタユウコは、完璧ではない日々の手触りを愛している。


そんな“想い”の隣には、誰かの思い出や、もう使われない素材たちが静かに眠っている。

捨てない選択が、誰かの“好き”になるまで

「なんか、もったいないな」

その感覚から、スコモジーナのアップサイクルは始まっている。

支援者や地域の人たちが、不要になった布や糸やボタンを届けてくれる。

廃棄物としてではなく、「もし、使えたら…」というやさしさと共に。

それは、ただの“材料提供”ではない。

届けた人の気持ちと、受け取った人の“やりたい”がつながって、ひとつの作品になっていく。

「好きって気持ちは、素材にも表れるんです」

完成品のどこかに、布の記憶が残っている。

どこかにボタンの事情が、ちらっと顔を出す。

だからスコモジーナの作品は、いつも少しだけ“話しかけてくる”。

このやりとりこそが、日常のなかで息づく「共生」なのだと思う。

わからなさに手をのばす

「“障害者アート”って言葉、なんか、あんまり好きじゃないんです」

枠に入れないで、と言いたいわけではない。 ただ、それは“誰のためのラベルなのか”を考えてしまうから。

スコモジーナの人々が生み出す表現は、見る者に回復や前向きさを与えることもある。 でも、そこに“わかりやすい意味”をつけることは、かえって彼らを閉じ込めることになるかもしれない。

「わからんままで、いいやん」

そう笑ったイケバタの目は、たしかに未来を見ていた。


✍️ 編集後記

言葉にならないものを、無理に言葉にしないまま残す──

そんな記事が、どこまで読まれるんだろう?と正直少し怖さもありました。

けれど、イケバタユウコさんの放つ言葉や“間”には、

どうしようもなく人の心を動かす力がありました。

彼女の答えは、どれもすぐに言えるほど練られたものじゃなくて、

それでもすぐに信じたくなる、そんな体温を持っていました。

「わからないものは、美しい」──

このタイトルを最後に決めた時、なんだか心の中で静かに鐘が鳴ったような気がしました。

わからないものに、手をのばしてみたくなる。

それは誰かの表現に出会うことでもあり、自分自身の“揺らぎ”を見つめ直すことでもあるのかもしれません。

次は、あなたの番です。

“わからなさ”に、どんな目を向けますか?

Lo-Fi HIMEJI 編集部より



#すきこそもののじょうずなれ
#手のひらの革命
#ふつうをやめた日
#“できる”より“やってみたい”
#表現が仕事になる瞬間
#ぐらぐらしたまま進む力
#静かな衝動
#まっすぐな曲線たち


取材・文・構成:Lo-Fi HIMEJI 編集部 写真:Lo-Fi HIMEJI 撮影班
(撮影地:schomojina、da botto coffee、BONDO C kuduRu)


一般社団法人 schomojina
生活介護事業所 スコモジーナ

 〒670-0805 姫路市西中島293-3
TEL/FAX 079-287-6643 E-mail info@schomojina.com
WEB https://schomojina.com/
Instagram https://www.instagram.com/schomojina/
営業時間 8:30~17:30 サービス提供時間 10:00~16:00
日月休業
夏期休暇 8/13.14.15 冬期休暇 12/30.31.1/1.2.3

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